日時;8月22日(金)15時~16時半
場所;垂水中学校
参加人数; 32名
各垂水区内中学校生活指導担当教諭・支援学校教諭
挨拶;垂水中学校 稲葉大治郎教頭先生
垂水区保護司会 芦田敏郎会長
司会;植田いく子保護司
内容;「ある保護観察事例から」 詐欺(譲渡する意思がないのにコンサートチケットを譲渡するとSNSに掲示して、 購入費目的で金銭を搾取したもの)
事例ケース朗読;林優子保護司
講評;森保護司会副会長
各グループ4~5名程度で6グループに分かれての研究会です。
その後、グループごとに発表しました















ある保護観察事件から
【研究のねらい】
ご存じのとおり、近年の少年人口の割合は、減少傾向にあり、その上、少年の検挙人員も、減少傾向にあるといわれていました。しかし、令和5年は、前年に引き続き増加し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前である令和元年の水準に迫るものとなっています。令和6年版犯罪白書には、児童虐待に係る事件、配偶者からの暴力事案等、サイバー犯罪、特殊詐欺等については、依然として検挙件数が増加傾向又は高止まり状態にあるほか、大麻取締法違反 の 2 0 歳代の検挙人員が大幅に増加傾向にある と 示されています。加えて、少年の検挙人員 も 2 年連続で増加 している こと なども踏まえると、犯罪情勢は予断を許さない状況にあるといえます。
そのような中で、闇バイ ト をはじめとする SNS等を利用した犯罪行為において保護観察になった少年の事例を通じて、SNSの問題を理解し、少年を取り巻く 環境や資質上の問題を考え、この少年やその家族を どの よ うに 支援 したら よい のか。更生 のた め に 学校や地域 と ど う 連携 できるの か。
いっしょに話し合い、考えてみましょう
少年Mの事例から
【性 格 等】
1 8 歳男子少年。知能は「普通」水準にある。
これまで少年は学校生活において大き な問題を起こすこ とはなかったが、高校2年生頃から怠学傾向が目立つようになった。また、高校入学後からアルバイ ト を続けていたが、時間にルーズな こと から、注意される機会も多く、ほとんどのアルバイトが長続きしなかった。
高校2年生ころから、携帯電話のゲームで課金利用を頻繁に行い、月に2〜3万円を費やしていた。本件非行時は、アルバイトが見つからず収入がない状況が約2か月続いていた。
学校を中心と した生活からやや逸脱した生活状況であった上、先の見通しを持たずにアルバイ ト を 辞めて 金銭の や り く り に 困るように なっていた。そのような状況にあるにもかかわらず、節約をすべき場面でも不適切な金銭 の使 い方 を続けていた。
【家 庭】
父母、妹、父方祖父母と同居の6人家族。
本件非行時 は、父母は別居に向 けて話し合い を してい る 時期であった。
父母は金銭に関して口論となることが多く、事実上の家庭内別居状態で家庭の雰囲気は悪かった。Mは、父母が別居するなら母と生活したいと思っ
ていたが、母から父母のどちらと同居するか意向を尋ねられた際は、母の経済的な負担を考慮して父と同居すると話す等、母の負担にならないように振る舞おうとしていた。
日頃は、母が子ども達の養育を担い、父や父方祖父母は子育てにあまり口出ししなかった。
父母は、本人が携帯電話ゲームの課金を利用していることを把握していたが、それ自体を問題視しておらず、課金しすぎないように伝えるに留ま
っていた。妹は、中学1年生で非行艦なし。
父方祖父母は、年金受給者である。Mの事件に関して保護観察が開始されるまでは知らされていなかった。
【今回の事件を起こすまでの生活歴】
小学生の時に、集団登校に間に合うように起きれず遅刻することが何度かあったが、その他は、学校生活の問題行動は無く 経過していた。中学卒
業後は、希望する機械科がある全日制の高校に進学した。高校では、髪型について注意を受けたことはあったが、学業とアルバイト を両立しながら概ね安定した生活を営んでいた。高校2年生のころ、父
母の関係が悪化したころ学校を休みがちになり、そのルーズさがアルバイトにも影響してアルバイトが長続きしなかった。持て余した時間を使って、高校 1 年生の時に学校を自主退学していた中学からの同級生 H と 共に携帯電話のオンライ ンゲームで遊ぶよ うになった。
高校2年生の冬に、X (旧:ツイッター)で携帯電話ゲームの課金データーが売られていたので購入しよう と思い、指示されたとおり に iTunes(アイチューンズ)カードを購入して、相手に番号を伝えたら課金データーを受け取れないまま ブロ ックされてしまった。Mは、自身が詐被害にあったこと を家族に話さなかった。
【少年Mの起こ した事件】
詐 欺(譲渡する意思がないのにコンサートチケットを譲渡するとSNSに掲示して、購入費目的で金銭を搾取したもの。)
【背景】
1 7歳頃、Hから勧められるままにオンライ ンの携帯電話ゲーム を使い始め、アルバイトの給料を使って課金するようになった。アルバイトが見つからず、給料がなく なっても課金が止まらず、母にたまにもらう小遣いでは、携帯電話ゲームの課金代を賄えなくなっていた。
Mは、自身が被害に遭った詐欺行為を思い出し、X (旧:ツイッター)を利用して、個人売買名下に現金を欺し取ろうと考え、アイドルグループのコ ンサー トチケット を売却する意思がないのに、これがあるよ う に装い、「OOアイ ドルグループチケ ッ ト 2 枚譲渡。急遽行けな く なったのでお譲
り先探しています。ご希望の方は、DM (ダイレクトメッセージ)お願いします。」と投稿し、DM を送ってきた被害者に PayPay送金機能を使用して4万円を送金させた。
後日、県外の警察から自宅に電話があり、父母はMが詐欺行為を行ったことを知った。父はMに事実を確認し、他にも同様の行為をしていないか追及すると、Mは何度か同じことをしたと認めた。父は、本件以外の被害者に被害弁償を行った。
Mは、3か月後に逮捕され、少年鑑別所に収容され、家庭裁判所の審判
で保護観察処分となった。
〜 みんなで話し合い考えてみましょう 〜
1 .少年Mが非行を起こしたのは、 なぜでしょうか。
少年Mの置かれた状況を想像してみましょう。(自身の問題。家庭の問題。本人の周囲の問題等)
2.少年Mに対してはどのような指導が有効でしょうか。
また少年 M の家族にどのような関わりや支援ができるでしょ うか。
家族以外の親族、母親の周りの人、少年Mの友人、職場の人、地域の人などそれぞれの立場で考えてみま しょう。
★ 家庭裁判所で保護観察処分を受けた少年Mのその後 *
家庭裁判所で保護観察処分 となった当日、Mと 父母は保護観祭所に出頭し、
保護観察官の面接を受け、保護観察期間中に守るべきルールの説明を受けた。
保護観察官は、携帯電話の使用方法についての考えと、今後の生活についての
考えを聴取した。Mは、携帯電話でのゲームは今後使用 しないと約束 し、休学
している高校は自主退学し、早期就労開始に向けての就職活動を実施するとの
意向を示した。面接に同席した父母は、Mのために夫婦関係を再構築し、父母
が協力してMを監督していく意向を示していた。
後日、担当保護司が指名 され、Mは、担当保護司との初回面接を受けるため
に父母と と もに更生保護サポー トセンターを訪問 した。担当保護司が自己紹介
を行うと、本人は、「よろしくお願いします。Jと元気に挨拶をした。面接で
担当保護司から、改めて保護観察の趣旨を説明し、保護観察官から指導された
保護観察期間中に守るべき ルール につ いて 再確認 し た。
保護司は:保護観察期間の約束として、①毎月2回の面接を土曜日とし、サ
ポー トセンターで実施すると決め、事前に面接可能な 日時を連絡する ように指
示した。②生活全般の不満や不安等については、父母又は担当保護司に相談す
るように指示した。
保護 司は、Mに対する 指導 が押付け に ならない よう に 配慮 しながら 面接 を行
い、早期就労開始に向けた助言を維続した。その効果もあってか、保護観察開
始直後に機械機器のメ ンテナンス会社へ就職した。また金銭管理の問題につい
ては、担当保護司に対して、本件時にパチンコ店でスロット遊戯をしていたと
の申告があり、そのような不適切なお金の使い方が、本件の要因となっている
こ とも自覚させた。
父母は、夫婦関係の再構築を 目標と しながらM に対して積極的に コ ミュニケ
ーションを取るように努めていたが、夫婦関係は改善できず、保護観察開始か
ら半年後に母と妹が父方祖父母宅を出て別居生活と なった。Mは、父母のどち
らとも交流を継続しながら生活を大きく崩すことはなかった。父方祖父母は、
保護観察開始後に本件について父から説明を受けており、祖母は、毎日お弁当
を作り仕事に行く 際、持たせるなどしてMをサポートした。
その後、再非行もなく、就労中心の安定した生活が認められたため、保護観
察開始から約1年後に保護観察が解除となった。解除時の本人は、これまで迷
惑を掛けた家族を気に懸ける様子を見せるなど大きく成長した姿を見せ、交際
中の彼女と将来結婚することを目標に仕事を頑張りますと述べ、担当保護司と
の最後の面接を終了した。
2025年度公開ケース研究会講評
森 啓二副会長
今日は暑い中、特に先生方には来週からおそらく学校が始まるだろうというお忙しいこの時期、お集まりいただき、熱心に討議に参加していただき、ありがとうございます。
「社会を明るくする運動」も今年75回目を迎えます。その一環として、毎年開かれているこの公開ケース研究会は、日頃直接にはお会いし、お話をする機会が少ない、学校の先生方、保護者・地域の方々と保護司の皆さんが、一つの事例を通し、お互いに自分の考えを出し合い、他の人の考えを知ることにより、相互理解を深めていただくことが目的の会であります。
今日の皆さんの話し合いの様子を見せて頂くと、この目的は十分に果たされたのではないかと思われます。
これまで更生保護に携わる多くの人たちの努力により、刑法犯そのものは減少してきました。ただ残念ながら最近は新しい形の犯罪が増えたこともあり、それが増加に転じ、再犯率も増加してきています。
今回の少年Mのように、SNS等を利用した犯罪行為等への対応では、今の若者たちの生活実態や新しい法律等を踏まえ、当事者にきちんと理解せていくが必要があります。しかし本人に何がいけなかったのか、と問いただしても、「そんなこと、みんなやっているよ」という言葉が返ってきそうで、これからの指導はなかなか大変だな、と思わざるをえないことも多くあります。
さて今日の資料の課題は
・一つは、少年Mが非行を起こしたのはなぜか、ということを本人の問題や家庭の問題、周囲の問題という視点から考えていただくことでした。
・二つ目は、少年Mに対してどのような指導が有効か、本人・家族・友人・職場等の視点から考えていただくことでした
各グループともに発表を聞かせて頂くと、私が重ねて指導助言をする必要がないほど、本当に多様な視点からそれぞれの問題点や今後の対策に関し、的確な意見が出されていました。それで時間の関係もあり、細かな点については私の助言は割愛させて頂きます。
ただ少年M君のように、引っ込み思案で、自分の思いを親や学校の先生など他の人に伝えることが苦手な子どもは先生方の周囲にも多くおられると思います。また両親が不仲で家族関係がぎくしゃくしている家庭も多いのではないかと思います。
高度に情報化が進んだ現代社会では、人と人とのつながりが希薄化し、多様な背景を持つ人たちも増え、孤立した生活を送る人たちも増えてきました。このような誰もが抱える「生きづらさ」が原因となり、少年Mもその一人かもしれませんが、犯罪や非行に手を染めたる人たちが増えてきた面もあると思います。
様々な人たちが、立ち直ろうとする人に寄り添い、支援の手を差し伸べて下さっています。しかし、自分のこれまでの考え方や生き方を変えるということは、そう簡単なことではありませんし、時間がかかります。そうすると支援している人に疲れがで出てきます。「この人をどれだけ支援しても無理なんだな」という諦めがでてきます。このような状態にならないためにも、見守り支える人が一人より二人、二人より三人と多くなり、お互いに助け合っていくことが大切になってきます。
現代社会は「待てない社会」「ファスト文化」で表されるように、効率を求め「待つこと」「時間をかけること」に否定的な風潮があります。このような現代社会においても、どのような人でも自分を認め、見守ってくれる人の存在に気づいたとき「人は変わることができるのだ」。ということをまず信じること。そして「待ち続ける時間」は決して無駄な時間ではなく、「人が変わっていくための時間」であり、その時間を私たちが希望を持ちながら支えていくことが大切なのではないでしょうか。
立ち直ろうとする人を支える人々の輪が、これまで以上に広がっていくことを願い、そのためにもまず学校の先生方と保護司会との連携が、これまで以上に深まっていくことをお願いし、講評とさせていただきます。本日は本当にご苦労様でした。